団塊世代のなかには、「親の介護」と「自らが将来介護を受けるための準備」の二つを考えなくてはいけない、いわば合間にはさまれたようなポジションにいて漠然と不安を感じている方が多くいるはずです。
どちらも有効な解決策がなかなか見つからない、また国・行政の政策的テコ入れが必要なテーマでもあるのですが、いくつか気になる点を挙げてみます。
内閣府の調査によれば、家族が寝たきりや認知症になるなどの介護が必要になるかどうかを不安に思うことがあるか?という問いに対し、7割が「ある」と回答しています。
介護が必要になる親の収入が年金だけでその資産も乏しい場合など、介護のためにやむなく離職や転居をせざるを得ない場合がでてきます。
(高齢の親との関わり方については、団塊世代に入った今の自分が、親のためにできること もご参照ください。)
また諸事情でやむなく遠距離介護を続けている場合なども、飛行機代などの費用負担が重なり、経済的にかなりの負担を強いられることも珍しくありません。
ある調査によれば、在宅介護の場合、平均的な介護費用は介護保険の1割の自己負担を含めて月4~5万円、また介護施設の場合は食費なども含めると月平均で10~20万円くらいはかかる、とされています。
もちろん在宅介護でなく、施設介護を選ぶケースもありますし、また介護費用を自分でなく親の家計から捻出できる恵まれた家庭もあるでしょう。
しかし介護をとりまく問題は、なにも経済的側面ばかりとは限りません。
介護家庭では、介護のストレスから本人が精神に変調をきたす、あるいは介護虐待などの社会問題につながる深刻なケースすら珍しくない状況となっています。
男性が親を介護する割合は年々増加しており、いまや「男の4人に1人」がなんらかのかたちで家族の介護に従事しているそうです。
介護虐待の加害者の半数を占めるのは夫ないし息子、という厚生労働省の調査結果もでているくらいです。
いつ終わるともしれぬ介護生活、あるいは慣れないことを相談する相手が周りにいないなど、ストレスが重なる要因が積み重なって介護従事者を苦しめていることが、問題の背景にあります。
今日の介護事情においては、精神的にも経済的にも「介護する側のケア」が主要なテーマのひとつとなっていることを、親の介護に向かいあう可能性の高い団塊世代としては、ぜひおぼえておきたいものです。
もうひとつは、やがて団塊世代にも確実にやってくる「自らの」介護問題です。
団塊世代であれば16年後の2025年には75歳以上に突入し、行政が呼ぶところの「後期高齢者」になります。
社会保障国民会議の試算によれば、もし現状の医療・介護体制が維持された場合、一般病床数は3割増しの133万床、在宅介護が必要な人数は6割強増しの408万人になるそうです。
しかしながら同試算は、それを解消するための諸施策を実施するには、現状の医療・介護費用の倍以上となる91兆円が必要、としています。
そのための医療・介護スタッフ数も現状から7割増しの664~684万人が必要、だそうです。
さらにこれらを手当するためには約45兆円の保険料と公費(税)の追加投入が必要とし、公費に限るなら追加的な消費税率の上げ幅としては4%程度が必要、と試算しています。
医療・介護費用のシミュレーション結果(社会保障国民会議)
しかし果たしてこれらの提言が指摘するような問題を、財源的にも状況的にも16年後に日本が克服し、団塊世代が安心して介護を受けられる体制が実現しているでしょうか。
残念ながら今日の状況をみる限りは、ひじょうに心もとない...と言わざるを得ないようです。
ある調査機関は、介護される世代に対して介護の担い手となる層の割合(家族介護力)が、団塊の世代が高齢化する2022年までには世界192カ国で日本が中最低となり、その後の数十年間も世界最低の水準が続くだろう、と指摘しています。
本格的な介護を受けることがないよう、あるいはいつかそうなるにせよその時期を少しでも遅らせるよう、個々人が健康維持や介護予防に力を入れるのが必要なことは、もちろんです。
しかしそれでもいつの日か、団塊世代やその家族が介護を受ける状況がやってきた場合、果たして誰にどのような状況で介護を受けることになるのか。
テーマが重すぎるので、あまり考えないようにしている...という方も、おそらくは多いことでしょう。
無理からぬことではありますが、しかし現実に向き合う可能性の高い避けてとおれないテーマであることもまた事実です。
いまの自分の立ち位置から出発して、少しづつでもまたゆっくりであっても、情報を集め考えをまとめて、家族と話しておくことも大切ではないでしょうか。
団塊世代はこれからの世代が恩恵にあずかるのが難しくなっている退職金や年金を受け取れ、うらやましがられる世代層であることも確かです。
しかし一方で、家族の介護と将来の自分の介護、どちらにおいても今からさまざまな問題を想定して備えておくことを要求され期待される、大変に責任の重い世代でもあります。
はたから見るほどに、退職後の悠々自適とはいかんのだよ...と、グチのひとつもこぼしたくなるといったところでしょうか。